Tomoi icepick

SUNTORY　Whisky Voice

「職人の街が生んだアイスピック」

バー立山　大阪府
立山重見さん（46）談

　うちのアイスピック、見てください。いいでしょう。何しろこんなに鋭いですから、たったひと振りで、自由自在に氷が割れるんです。つくってくれたのは、うちの常連のお客様。金属を扱う職人さんで、名前は友井隆之さんといいます。
　きっかけはこうでした。ある日、友井さんに、「良いアイスピックって、なかなか、ないんですよね……」と、愚痴をこぼしたら、「じゃあ、一つ、つくってみましょうか」。
　しばらく経ったある日、友井さんは「こんなん出来ました」と、試作品を持って来てくれました。
　切れ味や、衛生面、さまざまな使い勝手を考えて、「ここはもっとこうなっている方がいい」と、私は勝手なことを言わせてもらい、友井さんは意見を言いつつ、試作品を肴に酒を飲む。そんなことをどれだけ繰り返したことでしょう。
　友井さんが鉄工所を営む大阪の八尾は、優れた腕を持つ職人たちの街なんです。「板を曲げるなら日本一」とか、「ネジを切るならオレに任せとけ」とか、それぞれの金属加工の分野を極めた職人たちが沢山いて、なかには宇宙に打ち上げるH2Aロケットの部品をつくっている人のもいます。友井さんは、そういう職人仲間たちまでも巻き込んで、アイスピックの試作を重ねてくれました。
　バーで使う道具のために、世界有数の職人たちが力を尽くしてくれる。信じられないことですよ。けれど皆、いったん「面白い」と思えば、一肌脱いでくれるんです。お金じゃなくて、心で動く。
大阪は、そのような職人達が生きる街です。




SUNTORY　Whisky Voice　39号

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